
1. RAS(循環式養殖システム)の進化が陸上養殖の実現を後押し
陸上養殖の中心技術であるRAS(Recirculating Aquaculture System)は、淡水や海水を高度に再利用しながら魚を育てる革新的なシステム。従来は海上イケスでの養殖が主流だったものの、RASの普及により:
- 水質・酸素・温度・pHなどを24時間制御可能
- 病気・寄生虫リスクが低くなる
- 薬剤や抗生物質の使用削減につながる
というメリットが生まれ、 陸上でのサーモン養殖が現実的なビジネスモデルに変化しました。設置コストは高いものの、長期視点での安定収益につながる技術進化が進んでいます。
2. 環境配慮とESG投資の追い風

CO₂削減や海洋汚染対策が世界的に求められる中、陸上養殖は海洋環境へのインパクトを軽減できる“環境配慮型漁業”の代表とされています。
- 放流によるエサ残や排泄物が海に影響しない
- 漁獲過剰・天然資源枯渇への解決策になる
- SDGs・ESG対応として農林水産省や金融機関の支援が得られる
これにより、投資家の注目度が高まり、補助金や融資・優遇税制の適用が増加。事業採算性も徐々に改善しています。
3. 安定供給と品質の二重メリット
天然サーモンはシーズンや漁獲量変動により供給が不安定。一方、 陸上養殖ならば:
- 1年365日出荷可能
- サイズ・脂質率など品質のばらつきが少ない
- トレーサビリティ(産地・生育履歴)を完全管理できる
といったメリットが。飲食店や通販業者は安定供給を重視し、プレミアム価格でも「信頼できる品質」のサーモンを扱いたいニーズに応えられます。
4. 餌(飼料)技術の高度化がコスト改善にも貢献

従来、サーモンの養殖には高タンパクの魚粉・魚油が不可欠でしたが、 陸上養殖向けには配合飼料が高度に研究・開発されています。
- 植物性タンパク・昆虫ミール・微生物発酵由来飼料など魚粉代替が進む
- 餌の抗酸化力により品質保持と臭み軽減が可能に
- 飼料効率(FCR)が改善し、コスト削減と持続可能性向上が進む
これにより、養殖業者は品質と収益の両立が可能になっています。
5. 都市近郊での設置可能性と地方創生の両立
陸上養殖施設は海に面していない内陸部でも設立可能。そのため:
- 物流網の近くに事業所を構え鮮度輸送のコストを削減
- 廃校舎や耕作放棄地を利活用した再活性化
- 地元雇用の拡大や観光素材としての二次活用
といった“地方創生 × サーモン養殖”という新しい事業モデルが生まれています。自治体と連携した補助制度も広がり、全国展開への追い風となっています。
6. ブランド化・直販と高付加価値戦略

ノルウェーなどは既に数年前から“ノルウェーサーモン”ブランドを確立し、品質と安心の象徴として定着。国内でも陸上養殖参入者は:
- 加熱→ギフトやお取り寄せ用の通販向けブランド化
- 工場直販・D2Cモデルによる中間マージンの削減
- 観光×工場見学×体験販売の融合
など、付加価値を高めた戦略に成功しています。消費者も「安全・安心・新鮮・エコ」を一度に得られる商品を選ぶ傾向が強まっています。
7. コロナ・代替たんぱくの追い風で市場拡大
新型コロナ禍で水産物の流通に混乱が生じた経験から、安定供給できる陸上養殖が注目されるようになりました。また、将来的にはプラントベースや細胞培養代替たんぱくとの「正当な水産たんぱく」として位置付けられ、国内外の市場拡大が見込まれています。
✅まとめ:サーモン陸上養殖は“次世代アクアカルチャー”として成長軌道に乗る
要因 | 説明 |
---|---|
RAS技術の進化 | 水質制御・病気回避による生産安定性 |
環境配慮とESG対応 | 海洋への負荷軽減+支援制度獲得 |
安定供給×品質保証 | 通年出荷・トレーサビリティ維持 |
飼料技術革新 | 魚粉代替・FCR改善によるコスト最適化 |
地方創生と都市流通の両立 | 内陸設置+物流近接による効率性 |
ブランド化&直販モデル | ブランド認知・付加価値訴求による収益確保 |
パンデミック経験と未来需要 | 代替たんぱくとの競争軸で市場拡大へ |
今後の課題と展望
- 電力・再エネコストの抑制:再生可能エネルギーとの連携が鍵
- 大規模施設への投資回収期間の圧縮:柔軟な資本調達スキームが必要
- 認証制度(ASC等)の取り込みと普及:信頼性の向上で市場認知を獲得
- 海外展開と技術輸出:RASノウハウの移転でビジネスモデルの多角化
- テクノロジー進化とデジタル管理:IoT、AI、水質AI管理が次世代の基盤に
結びに
サーモンの陸上養殖は、持続可能性・品質・安定供給という三位一体の課題を同時解決する次世代アクアカルチャーとして注目を集めています。技術革新、環境支援、ブランド戦略、地域政策などが重なることで、今後10年で国内外の市場を席巻する可能性を秘めています。この波に乗るか否かは、これから養殖業に参入する企業と自治体のスピードと戦略にかかっています。