
1. 歴史的赤字7500億円の衝撃:構造改革費用と資産減損が直撃
2025年、日産は過去最大規模となる約7500億円の純損失を計上。これはリストラ費用や工場の減損処理、在庫の評価損などが一気に押し寄せた結果です。特にグローバル拠点の再編に伴い、欧州や東南アジアの工場閉鎖による損失が膨らみました。
販売台数の落ち込みに対し、固定費の削減が追いつかず、利益構造が崩壊。抜本的な構造改革が急務とされました。
2. 生産過剰と需要のミスマッチ:工場稼働率70%未満

かつて世界で500万台の生産能力を持っていた日産ですが、近年は販売実績が350万台前後まで低迷。工場稼働率は70%を下回り、収益性が著しく悪化しています。
このような過剰な設備投資のツケが、財務圧迫と減損処理の連鎖を生み、経営危機に拍車をかけました。
3. 北米と中国市場での大苦戦:主要市場でシェア低下
日産は北米と中国という2大市場でシェアを大きく落としました。アメリカではSUVやピックアップの競争力が低下し、ハイブリッドやPHEVの開発も遅れました。中国では、地場EVメーカーとの価格競争に敗れ、かつての成長エンジンが停滞しました。
新車投入の遅れや商品魅力の欠如が、ユーザー離れを加速させた大きな要因といえます。
4. EV戦略の失敗:リーフ・アリアの市場競争力不足

日産は早くからEVに注力し「リーフ」を世界的に展開してきましたが、その後の進化が遅れました。新型EV「アリア」は高価格帯で販売が伸び悩み、量販モデルとしての役割を果たせていません。
また、世界的にはハイブリッド車の需要が高まっている中、日産はこの分野に出遅れ。エンジンとモーターのハイブリッド戦略に明確な方針を持てなかったことも敗因です。
5. 経営統合協議の失敗:ホンダとの交渉が破談

2024年後半には、ホンダとの経営統合協議がスタート。しかし、日産が独立性を強く主張し、ホンダが持株比率や意思決定に対して主導権を求めたことで交渉は決裂。結果として、統合によるスケールメリットや研究開発の共同化という好機を逃しました。
この破談劇は市場にも不信感を与え、株価にもマイナス影響を与えました。
6. 経営トップの交代とガバナンスの混乱
長年経営を担ってきた内田社長が2025年3月に退任し、新たにイバン・エスピノーサ氏がCEOに就任。社長交代は「再建策を迅速に進めるため」とされる一方、トップマネジメントの混乱や意思決定の遅さに対する批判も強まっています。
ガバナンスの立て直しは日産再建のカギであり、社外取締役や株主からの信頼回復が求められています。
7. 販売戦略と商品ラインの迷走

世界的なトレンドとして、コンパクトSUVやEV、PHEVへの需要が高まっている中、日産は旧型モデルの改良や派生車種の展開にとどまり、製品ラインが時代のニーズに追いついていません。
魅力ある商品投入の遅れと、販売チャネル改革の遅滞が、ブランド価値の低下を招いています。
✅ 日産再生のために必要な5つのポイント
改革分野 | 必要な施策 |
---|---|
生産体制 | 過剰工場の閉鎖、稼働率向上、グローバル再配置 |
EV・HV戦略 | 価格競争力のある新型EV、HV投入の加速 |
収益構造改革 | 固定費の削減、サプライチェーンの見直し |
経営ガバナンス | 意思決定の迅速化、経営透明性の確保 |
ブランド再構築 | デザイン・品質・安全性での差別化 |
▽今後の展望:日産は再び復活できるか?
現在、日産は2万人規模の人員削減と7工場の閉鎖を進めつつ、次世代EVや小型HVの開発を加速しています。また、2026年以降に新EVプラットフォームを導入する予定で、グローバル競争への再挑戦が期待されています。
しかし、これまでの改革が「遅すぎた」との声も根強く、今後の市場対応と商品力次第では、さらなるリストラや事業売却も避けられないとの見方もあります。
まとめ
日産自動車の経営危機は、単一の要因によるものではなく、「生産過剰」「EV戦略の失敗」「ガバナンス混乱」「ホンダ統合の破談」といった複数の問題が同時に表面化した結果です。現在進行中の構造改革が実を結ぶかどうかは、今後2~3年の経営判断にかかっています。
この転換期を乗り越えるには、強いリーダーシップとスピード感のある意思決定が求められており、真の「技術の日産」復活が試されています。