ホルムズ海峡封鎖のリスクと日本への影響

ホルムズ海峡は、世界の原油輸送の約20%以上が通過する極めて重要な海上交通の要衝です。日本にとっては、輸入原油の約8割以上がこの海峡を経由しており、その封鎖は国家のエネルギー安全保障に直結する深刻なリスクです。

仮に封鎖されれば、原油価格の急騰、ガソリンや電力料金の高騰、さらには食品・日用品まで含めた物価上昇など、広範囲にわたる経済混乱が生じる可能性があります。また、エネルギー供給の不安定化は、企業活動や社会インフラにも大きな影響を与えます。

1. 短期的な緊急対応策

日本は国家石油備蓄制度により、200日以上の輸入代替備蓄を保有しています。封鎖時にはこの備蓄を段階的に放出し、市場の混乱を抑える措置が取られると考えられます。

中東依存からの脱却を目指し、アフリカ、東南アジア、アメリカなど他地域からの輸入を増やすことで、一部の供給をカバー可能です。ただし、インフラや調達量の制約から即効性は限定的であり、構造的な対応が必要です。

石油以外のエネルギー、特にLNGの安定調達も重要です。LNGは発電に使用される比率が高いため、封鎖による発電コストの急騰を避けるためには早期に供給網の強化が必要です。

エネルギー危機下では、電力需要の抑制が不可欠です。政府や企業はピーク電力の分散、在宅勤務の推奨、空調制限などを通じて使用量を抑える施策を講じる必要があります。

急激な物価上昇を抑えるため、政府によるガソリン・灯油補助金の投入や電気料金への支援、低所得者層への給付金制度なども検討されるべきです。

封鎖に伴う物流網の混乱に備え、港湾や輸送手段の多様化が求められます。輸入品の輸送ルートを分散し、国内の配送体制の強化も重要なポイントです。

自衛隊による中東海域での情報収集活動や、民間船舶の安全確保も日本としては重要な任務となります。場合によっては国際的な有志連合に参加し、航行の自由を守るための行動が求められるでしょう。

外交努力を通じて関係国に封鎖回避を働きかけると同時に、G7やアジア諸国との協調を深め、国際社会全体での封鎖回避に向けた調整が不可欠です。

日本はエネルギー消費国として、IEA（国際エネルギー機関）など国際枠組みにおいて、原油の緊急放出や価格安定のための協調行動に積極的に参加することが期待されます。

中東依存を減らすための構造的改革として、アメリカのシェールオイル、カナダやアフリカの産油国との連携強化が必要です。調達先の多様化により、地政学的リスクを分散することが可能です。

太陽光・風力・地熱などの再エネ比率を増やすことで、輸入エネルギー依存からの脱却を図ります。再エネ設備への投資や送電網の整備は中長期的なエネルギー自立の鍵を握ります。

エネルギー自給率向上のためには、安全性を十分に確保したうえでの原子力発電の活用も再検討されるべきです。特に安定電源としての役割は再エネと補完関係にあります。

家庭レベルでも、簡易な発電機、乾電池、ガスボンベ、水や非常食の備蓄が推奨されます。また、省エネ家電の使用、照明や冷暖房の節電も実践的な対策です。

企業は燃料・電力供給の中断に備え、事業継続計画（BCP）の見直しを行う必要があります。テレワーク導入、代替資源の確保、在庫管理の見直しなどが求められます。

ホルムズ海峡の封鎖という最悪の事態に備え、日本は短期・中期・長期の3つの時間軸で対応策を講じる必要があります。

そして国民一人ひとりが日頃からエネルギー問題に関心を持ち、備える意識を高めることも、危機を乗り越える大きな力となります。